sasshinoyoberu’s blog

よしのももこ&冊子のヨベル

《これ》

15年近く前に出版社からの頼まれ仕事でつくった本の写真がついさっき思いがけず流れてきて、あの頃はわたしの《生きている》の場にいたけど今はもうここにはいない生き物、あの頃はいなかったけど今はいる生き物、あのとき「わたし」とされていた粒子の淀み、いろいろなことがぱーっとよぎった。

一度も会ったことのない人を思い浮かべながらすこやかでいてくださいと祈るとき、わたしがその人の手がかりにしている《これ》はなんだろう?

死んだ父がまだあの人体を介して《生きている》をやっていた頃、2度目だか3度目に脳の血管が詰まって倒れ、音になった声を出してしゃべることができなくなって何年か経った頃、初めて血管が詰まったときよりもずっと前に父がカラオケをバックに歌っているのを録音したCD-Rが出てきて久しぶりに「父の声」を聴いたとき、わたしはお父っつぁんこんな声だったっけ?となり、「父の声」がどんなだったかを忘れていることにそこではじめて気がついた。

今これを書きながらわたしは父を思い浮かべていて、手がかりにしている《これ》が確かにある。《これ》はなんだろう?